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ゆめかわ日記

TENET 考察 24年版

時間は定義されない、されど記録はそれを定義する

僕はクリストファーノーラン監督の作品が大好きで、ずっと追っかけています。 ただし、彼の世界観を完全に理解するほど僕の想像力はまだ豊かではないなと毎回見返すたびに思い知らされます。

今回は何十回と見たTENETをもう一回見たので、そこで得た気づきをざっくりメモっておこうと思います。

公開は4年前ですが、まだ見ていらっしゃらない方には話の内容を掴めてしまう話題になりますので、見る機会が1%でも存在するならばお手数ですがブラウザバックをお願いします。

まだ、完全に理解できたわけではないので間違った解釈を行っている可能性がありますが、その点はご笑覧ください。

時間の順行と逆行の定義

この世界では遠い未来にある天才科学者が何らかの目的で時間の定義を物理的に変え、事実上時間が逆行したようにふるまう装置を開発します。

具体的なアルゴリズムは抽象化されていますが、現在僕たちが生きる時間では物の動作は原因と結果という因果関係が成立した段階でアクションを起こすようになっているから、銃は撃てば発砲されるし、物を離せば床に落ちるといった法則が成り立ちます。

しかし、その科学者が開発した装置を使用すると、この原因と結果という関係性を再構築することができ、結果があるから原因があるといった逆転的な動作を起こせるようになります。
要するに、「撃ったから撃とうとした。」「物を落としたから落そうとした。」といった定理が成り立つわけです。

これを客観的に現在の世界で見るとトリガーを引いたら銃弾が戻ってきた、薬きょうをつかもうとしたら薬莢から浮き上がってきた。といった時間を逆行するような挙動に見えるようになったということです。

これは「日々を過ごすから時間が流れていく」といったテーゼは詭弁に過ぎず、「時間が流れるから日々を過ごしている」という解釈で時間軸の観点を物理的な流れを変えるといった視点で考えたわけです。

僕は初めの数回見た段階では時間が単に順行、逆行しているとだけ考えていたので衝撃を受けました。
時間の流れという概念さえも、僕が認識しうる客観的な要素の一つに過ぎなかったとは...

順行世界と逆行世界の折衝点を定義するのは「記録」

時間の定義を見てみると、考え方によっては順行する世界と逆行する世界はパラレルに存在するものではないかと考えることもできますが、本作では同時に同じ世界線で作用、反作用が発生しています。

この概念を定義付けるのが「記録」です。

銃を撃った。物を取り返した。連絡を取った。といった行動はある時間の流れに対して静止した情報記録を提供します。これは記録が行われた時点で記録自体を参照すれば時間の流れに関係なく情報を得ることができます。

例えば通話記録として残された情報やさまざまな痕跡は、ある時間軸の時点では知りえなかった情報を知ることができる要素となるわけです。

本作では記録という概念を駆使して、過去と未来に存在する人々が作戦を練ったり行動に出たりしています。

今回はこの要素をつかめたので、セイルや主人公らが記録を使って様々な攻防を広げていたといった事実が鮮明になっていき、その頭脳戦に感動しました。

ニールの役割について

主人公の人気を凌駕するぐらい強烈的な印象を残したニール先生、彼の役割については主に2つの要素から注目することになります。

まず一つは、最後の役目を終えた後鍵の開錠を行うために犠牲になるニール。
終盤、名もなき男は彼のリュックについてある特徴的なキーチェーンを見て、核融合炉のゲートで撃たれた隊員がニールであることを知ります。

このニールの役割は鍵を開錠して名もなき男をゲートの深部に入れること、そしてもう一つ重要なのが同時時間軸にいる名もなき男に、ニールにミッションを託し彼を導くように命令を与えることを過去の自分自身に告げられるようにするための意思決定の端緒となることです。

ニールは話の冒頭から名もなき男の素性を知っているようなそぶりを見せており、彼がミッション中に酒を飲まないからダイエットコークを頼んだり、しかるべきタイミングで時間の流れに関するアルゴリズムを知ってもらうまで秘密裏に行動する様子が見られました。

これは、スタルクス計画により人類滅亡が迫るといったことを名もなき男と出会う数年前から名もなき男自身からミッションとともに伝えられ、共に作戦を練っていた時間軸があることを示唆しているのでしょう。

もう一つは名もなき男をサポートするニール。
彼は過去に名もなき男自身から依頼を受けて彼をサポートする役割を担います。

彼の主義(TENET)や行動パターンなどは事前に聞かされている部分もありますが、
あくまでそれは過去に依頼を出した名もなき男の行動や言動からしか読み取れないものなので、基本的には初体験の出来事として名もなき男とともにミッションを遂行していきます。

彼のミッションは名もなき男に出会うこと、その向こうには代えられない運命があるといった部分が存在することも考えると切ないですね。

小ネタ

作中にオッペンハイマー博士の開発とそれが与えた影響についての言及を行っていました。 プルトニウムや核といった分野をTENETの要素に盛り込む段階で、オッペンハイマー博士の研究についても徹底的に調査された片鱗でしょうか。

4年後の現在、オッペンハイマーは映画化されましたね。 あちらも本当にすごいので是非ご覧ください。

まとめ

噛むほどに味がする

インセプション、メメント、インターステラー等、彼の造る作品はがんじがらめで考え込まれた世界観から織りなされる物語なので、僕には一回や二回見ただけでは本質をつかむのが難しいほど考察の余地がある映画です。

その中でもTENETは従来以上に遥かに分析が楽しくなる要素が散りばめられていたので、噛むほどに味が染み出てきて面白いです。

おそらくまた二か月後ぐらいに禁断症状が出て観るんだと思います。 ノーラン先生、一生ついていきます!

ここに書かれている内容に関しては根拠や出典の存在を一切保証しません。

また、実際の人物や団体に影響が出ないようにある程度抽象化したり脚色したりすることもあります。

ぶび